ここに来ないと食べられない、漁師まちで愛される海老の味。

 

———三重の食は、伊勢海老だけじゃないらしい…

三重県の食といえば「伊勢えび」のイメージが強い。伊勢えびは、確かにおいしい。でも、尾鷲市の漁師まちを訪ねたときに、地元の漁師さんたちが「実は、もっと旨い海老がある」と言っているのを聞いた。その「旨い海老」の正体が知りたいと思い、港を歩いた。

朝の尾鷲港の風景写真

朝6時の尾鷲港。あたりはまだ暗くて、空気がきりりと冷えている。

尾鷲港の中では、フォークリフトを運転したり、ケースに氷を入れたり、忙しそうに漁協の人たちが働いている。もうすぐ漁から帰ってくる船を迎えるための準備をしているそうだ。てきぱきと働く人の姿はいつ見ても格好良い。

尾鷲漁協に36年勤めている仲本さんに市場の中を案内していただく。

尾鷲漁協の仲本さんの写真

昨日のうちに水揚げされて、セリにかけられる前の海老があるという。仲本さんが指差す先には、今まで見たこともなかった海老がいた。

木箱の中で跳ねるうちわえびの写真

「うちわえび」というそうだ。まだ生きていて、ときどき箱の中でバチバチとはねる。見慣れないエビの姿に「これ、本当に食べられるの」という言葉が頭をよぎる。それが顔に出ていたのか、仲本さんが「伊勢えびよりも希少で高値がつく食材」だと教えてくれる。どんな味なのだろう。

木箱に入ったうちわえび

———あるときはある。ないときはない。これもまた、漁師まちの営み

「でも、今日は少ないなあ。昨日来たら、もっといろんな種類がおったのに。」

尾鷲港には、さまざまな種類のえびが水揚げされる。あかざえび、うちわえび、おにえび、がすえび、くまえび、くもえび、べにがらえび、ぼたんえび、わらじえび…。

そのほとんどは、水揚げされても尾鷲市内でしか流通しないという。数があまりない、傷みやすいなどの理由もあるが、なにより、おいしくてまちの中で消費されてしまうからだ。

えびの話をしていると、周りにいた人たちからも「おにえびは煮付けがうまい」「がすえびのチャーハンは最高」「すしはやっぱりぼたんえびやな」といった声が飛び交う。ちなみに仲本さんのおすすめは、「あかざえびの塩焼き」とのこと。

話を伺っているうちに、空がだんだん白んできた。7時前になると、セリに参加する人たちがたくさんやって来る。「うちわえび」の入札が始まった。

競りの写真

10人くらいの人が箱の周りを囲んで、あっという間に競りが終わる。この日、うちわえびを競り落としたのは、市場からほど近い場所に店舗をかまえる「岩崎魚店」だった。

競り落とした岩崎さんの写真

9時の開店を待って、「岩崎魚店」を訪ねてみる。さまざまな魚が並ぶ店先に、さっきのうちわえびがいた。

岩崎魚店の店先の写真

どんな海老が入荷するかは、やはりその日次第とのこと。

うちわえびも、見つけた人が買って行くのですぐに売れてしまうそう。

岩崎魚店の写真

あるときは、ある。ないときは、ない。どんな海老に出会えるかは、そのとき次第。これもまた、漁師まちのおもしろさなのかもしれない。

———うちわえびを追いかけて…

これだけ、おいしそうな海老の話を聞いて、食べないわけにはいかない。岩崎魚店で仕入れをしているという隣町の紀北町の民宿でえびを食べさせてもらうことになった。

こちらの若大将の大西孝政さんは、和食だけでなく、イタリアンでも修行を積んだ料理人。この日は、うちわえび以外の海老もご用意いただいた。

大西孝政さんの写真

まずは、おにえびの煮付け。

おにえびの煮付けの写真

ぱかっと割って、皮をむいていただく。味がよく染みていて、かむほどに甘みが感じられる。頭側のみそもまた、おいしい。

次は、がすえび。

がすえびの酢味噌和えの写真

一口サイズのがすえび。食べると、うまみが口の中に広がる。新鮮ながすえびをお造りにしてもおいしいらしい。地元ではいろいろな料理に合うけれど、鮮度が落ちやすいこともあり、この地域でしか食べられない。

そして、次はくもえびのトマトクリームパスタ。

くもえびのトマトクリームパスタの写真

こちらのくもえびは、伊勢えびよりもまろやかな味が特徴だという。くもえびの味がソースによくなじんでいて、絶品。

そして、最後に岩崎魚店で仕入れたといううちわえび。

調理されたうちわえびの写真

茹でられたえびのおいしそうな香りが部屋の中に広がる。真ん中をはさみで切って、いただく。

うちわえびの身は柔らかくて、甘みがある。かめばかむほど、うちわえびのうまみが伝わってくる。数が少ないため、地元の人でもなかなか食べる機会が少ないという。こちらも地域の外には、ほとんど流通しない。

調理されたうちわえびの写真

この地域に暮らす人たちは、海老の味にうるさい。地元の人たちは、それぞれの海老の味や、そのおいしい食べ方を誰よりも知っているからだ。地域外ではなかなか流通しないからこそ、ぜひ足を運んで、味わってみてほしい。


(2016年11月28日取材)
企画編集:三重に暮らす・旅するWEBマガジンOTONAMIE運営本部
取材:きただ まさき(OTONAMIE公式記者)

取材協力

岩崎魚店
三重県尾鷲市坂場町5-33
Tel 0597-22-3846

四季活魚の宿 紀伊の松島
http://kiinomatsushima.com/
三重県北牟婁郡紀北町古里1057
Tel 0597-49-3048

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