陽気な離島、答志島の全身トロのようなサワラと、プロフェッショナルの粋。

2017年の春、三重県鳥羽市の離島、答志島(とうしじま)に遊びにいったときの漁師さんとの会話。

漁師さん:兄ちゃん、今度は秋にきて、サワラの刺身食べてみ。「全身トロ」みたいやで。しょう油をはじくくらい脂がのっとって、うまいぞー。

サワラ(鰆)は魚に春と書くが、答志島では秋が旬だという。そしてサワラは痛みやすい魚であり、「全身トロ」クラスの刺身は現地で食べるのがおいしいと聞いた。 私は「全身トロ」というキラーワードに心打たれ、10月中旬に答志島へやってきた。

河瀬シェフ
▲三重県伊勢市の伊勢神宮外宮参道で人気のフレンチ店を経営する、河瀬シェフ
(過去記事はこちら)。
今村シェフ
▲三重県志摩市にある高級リゾートホテルで料理長を務める、今村シェフ
(過去記事はこちら)。

今回は、地元の寿司店にご協力いただき、河瀬毅シェフと今村将人シェフの競演によるフランス料理の一品を漁師さんたちに振る舞うという企画。食材はもちろん捕れたてのサワラ。私は特別なゲストを招いての企画を胸であたためながら、このときを春から待ちわびていたのだ。
変わりゆく離島、変わらない離島。そこに暮らす底抜けに明るい漁師の方々。そして美しい自然。そんな魅力がギュッとつまった、旅のはじまりはじまりー!

???風光明媚な答志島を乗り物に乗って

答志島へは鳥羽マリンターミナルから定期船で約20分。島は東西に約6㎞、南北に約1.5㎞。主な産業は漁業で、漁場には木曽三川と水質日本一を誇る宮川から養分を豊富に含んだ水流が流れ込み、プランクトンを育て、小魚が集まり、それを求めて豊富な種類の魚がやってくる。自然環境に恵まれた漁場をもつ。
自然林が80%で、答志(とうし)、和具(わぐ)、桃取(ももとり)という三つの集落からなる。人口は約2,500人で、年々減っている。

本題に入る前に、風光明媚な答志島が楽しめるスポットを紹介したい。
答志島は、予約をしておけば車で案内をしてもらうこともできるが、二つの乗り物を定期船に乗せてきた。
まずは自転車だ。答志と和具は徒歩でも移動は可能だが、風光明媚な島の魅力をより多く快適に感じるには自転車がおすすめだ。
今回、今村シェフに自転車で巡っていただいた。

海沿いを自転車で走る今村シェフ

BLUE FIELD(写真:鳥羽商工会議所)
▲BLUE FIELD(写真:鳥羽商工会議所)

最初は、BLUE FIELDという海に面した場所。大きなウッドデッキがあり、美しい海を間近で感じることができる。

漁港の近くを自転車で走る今村シェフ

漁村の路地を自転車で走る今村シェフ

続いて、漁港を通過して、漁村の狭い路地。どこか懐かしさを感じる空間だ。

今村さん:海風が気持ちいいですね!

続いて海から山へ。ここでもう一つの乗り物、スーパーカブの登場だ。

答志島の山道をスーパーカブで走る河瀬シェフ。

河瀬シェフには、スーパーカブで答志島の山道を爽快にドライブしながら、先ほどのBLUE FIELDとは対象的な、山の上からの風景を眺められるRAY FIELDへ向かっていただいた。

河瀬さん:まさかこの歳になって、答志島をスーパーカブで走るとは思ってもいなかったけど、爽快で気持ち良かった!

RAY FIELD(写真:鳥羽商工会議所)
▲RAY FIELD(写真:鳥羽商工会議所)


RAY FIELDに到着した河瀬シェフと今村シェフ。

島からの絶景が楽しめるRAY FIELDに到着。
自然が織りなす広大な絶景は、人の心を晴れやかな気分にしてくれる。

鳥羽商工会議所によるとBLUE FIELDは朝日が、RAY FIELDは夕日がともて美しいとのこと。
(詳しくは、「鳥羽商工会議所」サイトを参照)

???これも「全身トロ」!?

朝の漁村の風景
▲朝の景色

旅館の近くから望む日の出。太陽の光が降り注ぐ答志島は、まだ夏のようだった。

旅館の朝食

宿での朝食は伊勢海老のみそ汁という、なんとも漁村らしい贅沢。
チェックアウトをして、答志漁港にやってきた。

答志漁港のサワラ1

答志漁港に到着すると、サワラが水揚げされていた。

答志漁港のサワラ2

競りの様子

競りが始まり活気づく。

いけすを観察する今村シェフ

答志漁港は多種多様な魚介類が水揚げされ、一般の人も当日に入口で受付をすれば、見学をすることができる。

大きな魚に興味を持つ今村シェフ

今村さん:大きな魚!これは何ですか?

大きな魚を説明してくれる仲買人

仲買人:これはイシナギ。滅多に揚がらへん。

今村さん:では結構な高値で取引されるのですか?

仲買人:さぁーどうかな。滅多にない魚やからなー。わからへん。味は全身トロみたいやで。

えっ!これも全身トロ・・・、と私はざわつく気持ちとともに、漁港をシェフとぶらぶらと散策。

ホウボウ

今村さん:おーホウボウもいますね!これはブイヤベースなんかに使うんですよ。

続いて和具浦漁港に向かう。

漁協の(和具浦)支所長と話をする、河瀬シェフと今村シェフ。

河瀬さん:水揚げされているのは、一本釣りのサワラですか?

漁協の(和具浦)支所長:和具のサワラは、すべて一本釣り。

支所長に話しを聞くと、一本釣りのサワラは、漁師が釣り上げた直後に船上で締めるという。

サワラを軽トラックに積み込む、漁協の方と仲買人。

仲買人が目利きをしながら、あっという間に競り落とされていくサワラ。そしてサワラの取り扱いが丁寧なのが印象的だった。
続いて今回の企画を行うために、答志島の寿司店に向かった。

???人気フレンチシェフの競演。お客は漁師さん。

寿司店の外観

訪れた寿司店は、地元の漁師も通う店。

サワラ料理
▲サワラの寿司や刺身など、様々なサワラ料理。

特にサワラ料理が人気のお店だ。

漁師さんの写真
▲地元の漁師の皆さん。左から橋本さん(鳥羽磯部漁協理事)、井村さん、山本さん。

山本さん:こちらのシェフさんたちは有名な人なん?

私(記者):県内外でも有名な方です。

山本さん:世界一有名?

私(記者):いや、世界一かはどうかわかりませんが・・・。

山本さん:俺は世界一の漁師!わはは!

明るい漁師の山本さん

そう、今回集まっていただいた漁師さん達はとても明るく、まるでお笑い芸人のようにお話がおもしろい。

漁師の橋本さん

橋本さん:ここらで捕れたサワラが美味しいのは、エサがええでな。身が白くてな、白身のトロやわ。

山本さん:そのなかでも、俺が捕ったサワラが一番旨い!(笑)

漁師さんのトークに笑いながら料理をする河瀬シェフ

シェフと談笑する漁師さん

調理をする河瀬シェフと今村シェフ

漁師さんの笑いに誘われながら、両シェフの調理が進む。

サワラを燻製で調理中

今回、サワラのタルタルと瞬間燻製を作っていただいた。皮を炙るシェフを見ていた橋本さん。
「炙るの正解やわ。タタキでも炙るでな。」

サワラのタルタルと瞬間燻製

見た目も美しい料理が完成した。
早速漁師さんに試食していただく。

山本さん:うん!おいしいなー!

「おいしいハムのような感じ」「食べたことない味だけど、おいしい!」「オシャレな味!」など、店内は歓声に沸く。

山本さん:ボルドーの30年物に合うねー。
と、急にすましたコメントで笑いを誘う。

試食する漁師さん3

井村さん:いや、魚には白ワインやで!
と、となりの席から軽快なツッコミ。

漁師さんの仕事はキツいし体力もいる。こうやって笑いながら一杯やるのが、みんな大好きだとか。

彼らはプロフェッショナルだ。身の危険もある海にでれば、どこでいつ頃おいしい魚がとれるのかを熟知しており、締め方をはじめ魚に精通している。そんな漁師さんがいるからこそ、シェフの元に最高の食材が届くのだ。その食材をシェフが調理し、消費者の口へと運ばれる。
河瀬シェフの感想が印象的だった。

「漁港での、慎重かつ丁寧なサワラの取り扱いが印象的でした。おろした身に身割れがなくシュッとしていましたので。サワラのタルタルは、あえて細切りだけにしました。ミンチのように押し潰して細かくしてしまえば、身は柔らかくネチャネチャになってしまう。それでは、釣る、締める、大事に競りで扱う、目利きして買う、さばく、寝かすといった最高の身を守るために沢山の人の手と知恵で届けられた素材に対して失礼ですし、そんな料理では漁師さんに納得してもらえないのではと思いました。」

今村シェフが、漁師さんの魚への知識の深さに敬意を払いながら質問していたのも印象的だった。

皆さんで集合写真

漁師さんは魚への深い知識をひけらかすのではなく、笑いを交えながら楽しく教えてくれた。シェフも自分の料理哲学を押しつけるのではなく、サワラに関係する人に対しての敬意をこめた料理に仕上げた。
プロフェッショナルの粋な心づかいを感じた。

???島の未来を見つめる、漁師にも人気のパン屋とは!?

ここまで答志と和具を見てきたが、答志島にはもう一つ桃取という集落がある。そこではとてもキレイな夕日が眺められる、島唯一のパン屋があるという。

桃取の夕日
▲答志島桃取から見える夕日。

「晴れの日は、毎日のようにこんなきれいな夕日が見られるんですよ。」

お店の方とシェフ
▲写真右:徳本篤司さん、写真中:徳本江里さん、写真左:今村シェフ

そう語ってくれたのは、パン屋を営む徳本篤司さん。奥さんの江里さんの実家が桃取で、子育てをきっかけに移住してお店を開業した。
篤司さんは、桑名市のホテルで17年間、料理人として勤めたキャリアを持つ。

お店の外観

それにしても、離島の漁村にパン屋。さらに過疎化が進んでいる桃取で、パン屋の需要はあるのだろうか。
徳本さんご夫妻に話を伺うと、桃取の漁師さんの朝食はパンが多いらしい。仕事の途中にパッと食べられるのがいいとのことで、漁師さんに人気があるという。さらに桃取には人が集う喫茶店のようなお店がなかったため、コーヒーが香るコミュニティースペースは、島民の方々で賑わうそうだ。

店内

篤司さん:この店をきっかけに来島してくれる人が増え、島の人との交流ができたり、新しい人の流れができればいいなと思っています。

今村さん:私の料理人人生は東京からのスタートでした。今は志摩市で料理人をしていますが、東京で15?16年やってきて、料理人としていつか独立したい人は多いと感じています。ここのお店のように、料理店には色々な役割があるのだなと思いました。

定期船で帰る両シェフ

取材を終え、帰りの定期船に乗ったときはもう夜だった。
来年もまた、秋が旬の答志島のサワラ(鰆)を食べに行こうと思った。
世界一の漁師さんが、世界一のサワラを釣り上げてくれると信じ、お腹には「全身トロ」、胸に焼き付いた「美しい自然」の余韻に浸りながら、家路についた。


(2017年10月10日、11日取材)
企画編集:三重に暮らす・旅するWEBマガジンOTONAMIE
取材:村山 祐介(OTONAMIE代表)

取材協力

島のパン家 ?hanare?
三重県鳥羽市桃取町259
Tel 0599-20-0099
Facebook https://www.facebook.com/島のパン家-hanare-1104298032977143/

鳥羽磯部漁業協同組合
(答志支所)
三重県鳥羽市答志町宇亜須浜1354-11
Tel 0599-37-2018
(和具浦支所)
三重県鳥羽市答志町892-1
Tel 0599-37-2010

寿司店 大春
三重県鳥羽市答志町778
Tel 0599-37-2109
Facebook https://www.facebook.com/daiharu.toushijima

THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS KASHIKOJIMA
三重県志摩市阿児町鵜方3618-52
Tel 0599-65-7001
HP http://www.hiramatsuhotels.com/kashikojima/

フランス料理レストラン BonVivant(ボンヴィヴァン)
三重県伊勢市本町20-24
Tel 0596-26-3131
HP http://www.bonvivant1983.com

鳥羽商工会議所
三重県鳥羽市大明東町1-7
Tel 0599-25-2751
鳥羽商工会議所HP http://toba.or.jp
答志島をはじめとした鳥羽の魅力を伝える特設サイト
「鳥羽図鑑」HP http://www.toba.or.jp/zukan/

TOP