マコモとエゴマとユズと美と。

私は今、まちなかで暮らしているが、こどもの頃は山あいにある小さな集落で育った。そのため、深々とした緑の森や透き通った川の水、柔らかな空気、それらを五感で感じると、「あっ、これこれ!この感じ」と、心が喜び、体がリラックスしていく。そんな自然あふれる場所で、マコモ、エゴマ、ユズを使った新しい取組が行われていると聞き、取材に訪れた。
そこで、美しい “色” に出会った。

———山で磨かれた水で育った、真っ白なマコモ。

当日は、数日前の台風を忘れさせるほどの、よく晴れた朝。取材先の菰野町は鈴鹿山脈のお膝元で、山々でじっくりと磨かれた水に恵まれている。
今回のマコモの取材をコーディネートしていただいた山岡亮さんは、「まこもでキレイになろう。プロジェクト」の運営に携わっていて、そのプロジェクトの活動は、マコモに関するイベントや料理レシピの開発、地域の飲食店や旅館などと連携し、マコモの活用を積極的に提案するなど多岐に渡る。
早速、山岡さんとマコモ農家の田中稔久さんと、マコモ畑へ向かう。

田中さんとマコモ畑の写真
▲マコモ農家の田中さん

台風で倒れてしまったマコモの稲だが、通常は背丈2メートルほどにもなるという。青々とした葉をかき分けて、根っこの方を見ると白さが光る茎が顔を出す。

マコモをむく、田中さん。

「これがマコモダケ。白い方が太っていて、おいしいやつやで!」
田中さんの、得意げにはずむ声が、私たちの心も踊らせる。

生で食べたマコモ

生でも食べられるとのことなので一口、ポリッ。
味は、ほんのり甘くて癖がない。食感はヤングコーンみたいだ。

畑近くの水源

畑の周辺を流れる水は透明度が高く、まるで大地が緑青の底からこちらを見上げて
「山で磨かれた水で育った真っ白いマコモダケだから、おいしいに決まっているでしょ!?」
と、語っているかのよう。

まこの原生種と看板
▲畑の近くにあるマコモの原生種。

近くには、原生種のマコモが生える湿地。ここが菰野町の名前の由来の原点とされている。
「道の駅に行ったら、マコモ製品が売っとるで。」
という田中さんの言葉を聞き、向かったのは道の駅菰野。

マコモの商品集合写真
▲道の駅菰野に売られていたマコモ製品の一部

そこには収穫したマコモはもちろん、粉末状のマコモを使ったお菓子や、マコモ入りの納豆、期間限定のマコモづくし弁当まで様々な商品が売られている。マコモの使われ方は実に幅広い。

マコモのアイス

マコモのアイス拡大写真

その中で、マコモアイスを一口。いぶしたミルクのような、大人の苦味に、さっぱりとした甘さでおいしい。

湯の山温泉ホテル外観
▲湯の山温泉街のホテルに移動

「マコモのことを聞きたいのであれば、あの方!」と、山岡さんに紹介されたのは湯の山温泉街にあるホテルの女将、伊藤寿美子さん。

ホテルでの取材の風景
▲写真 右:山岡さん 中:伊藤さん 左:筆者

伊藤さんは大学時代に、植物病理学の研究室で学んだ経歴を持つ。ちなみにマコモダケとは、マコモの根元部分の茎に付いた黒穂菌が影響して肥大したものらしい。そのような知識を持つ伊藤さん一押し食材が、マコモ。

「 “伊勢の麻、出雲の真菰(マコモ)” といわれ、出雲大社のしめ縄にもマコモが使われているんですよ。そしてマコモダケや粉末にしたマコモは調理方法を選ばずおいしくいただける。こんな植物は、他にはなかなかないですよ。」と、伊藤さんは教えてくれた。

ポスター

館内の壁を見ると、マコモを口にする美女。マコモでキレイになろうプロジェクトのポスターだ。マコモは、美容や健康によいとされていて、その栄養成分などは「まこもでキレイになろう。プロジェクト」のホームページでも公開されている。
美容や健康に敏感な現代。菰野町はマコモとともに、時代のニーズに合わせながら新たな展開を始めていた。

続いて、白いマコモとは対照的な、黒いエゴマに関する取組を取材するために、三重県南部の山間の町、大台町へ。高速道路を南下して、約1時間半、車を走らせた。

———まるで土のような黒色の、エゴマの美。

大台ケ原の山並みが連なる大台町は、ユネスコエコパークにも指定された深緑の土地。取材に訪れたのは秋のよく晴れた昼下がり。
エゴマといえば、数年前からその美容効果が世間で話題になっている。
大台町でエゴマを育てるきっかけになったのは獣害被害だった。JA多気郡農協奥伊勢地区女性部のみなさんの発案で、3年前に獣害被害がないエゴマ栽培を始めた。手探りで始めたエゴマ栽培は、徐々に協力者も集まり順調に進み、試行錯誤してエゴマ油の商品開発を行うと、思っていた以上に反響があった。
「今年の収穫分で作るエゴマ油は、昨年売れた約1,000本の2倍以上になる予定なんです。」と教えてくれたのは今回、大台町での取材をコーディネートしていただく西口茉実さん。同町の元地域おこし協力隊で、タレントとしても活躍しており、エゴマの収穫に積極的に参加したり、エゴマ商品のアピールも自発的に行っている。

エゴマ茶
▲エゴマ茶

この地の特産である大台茶と、乾燥させたエゴマの葉をブレンドしたえごま茶は、清涼感ある香りが鼻を通ったあと、喉を潤す。
「ハーブティーみたいで、いい香りがするでしょ?」
と、JA多気郡の吉田みやこさんが、お話してくれた。

エゴマ油
▲エゴマ油

次に出てきた琥珀色の液体は、エゴマ油。
「市販のエゴマ油で、ここまで色が濃いものはあまりないんですよ。」
と、西口さん。大台町のエゴマは農薬や化学肥料を使わず、全て手作業で完成させるからこそ不純物が少なくて色が濃くなり、これが油?と疑いたくほどサラっとしている。

エゴマの美
▲エゴマの美

黒い実からは想像もつかない、鮮やかな琥珀色。
エゴマ畑や、その収穫を見たことがなかった私は、早速畑へ。

エゴマ畑の収穫の様子

車から降りて、すぐに、「ああ、さっきのお茶と同じ匂いだ」と、気が付く。
畑では、数名が刈り取り作業をしている。みんなご近所のお父さんやお母さん。

エゴマ畑の土

ふと見上げれば、美しい山並に囲まれ、太陽の光が燦々と降り注ぐ。その光と土が織りなすコントラストは、強い大地の生命力のようなものを感じさせる光景だった。
収穫を見学していると、やってきたのは名古屋市在住で映像作家の岡根智美さん。彼女はエゴマ生産の立ち上げ時に、農業体験プログラムを作った。大台町に魅せられていて、今も足しげく通う。

縁側で話す3名
▲写真 右:西口さん、中:𠮷田さん、左:岡根さん

収穫のお手伝いをされていた方のご自宅の縁側をお借りして、岡根さん、𠮷田さん、西口さんでしばしエゴマ談義。「当初はホンマにできるんか不安やったなー。」「夏の草抜きとか本当に大変・・・。でも人が集まってきてくれて嬉しかった」「こんなに大台のエゴマ油が人気になるなんて。手作業は大変やけど、やっぱり嬉しい。」3名の言葉には、周囲の温度を少し上げる熱いものが含まれる。

エゴマの加工風景

今では、皆で乾燥した収穫時の株をバシンバシン。板に叩き付けて1ミリほどの実をたくさん落とし、拾い集めるのだという。

談笑する西口さんと𠮷田さん

「収穫作業など、地域の方が集まってお話をしたり、触れあいを持てることも喜ばれています。」
と、西口さんはいう。

エゴマ油の写真
▲初年度(平成28年)完売した、エゴマ油。

土と同じ色をしたその実は、地域の明日を明るく照らし始めている。

———まるでおひさまみたいな、黄色いユズ。

小椋さんとユズ畑
▲ユズ農家の小椋さん

大台町は紀伊半島の山間部に位置し、雨が多く、夏の乾燥を嫌うユズの栽培に適している土地で、今では盛んにユズが栽培されている。たわわに実るユズの木を見たのは、大台町のユズ農家の先駆け、小掠悟さんのお宅。
さっそく裏の畑に回る。

ユズの拡大写真

大きな実。おひさまに似た黄色の球体は、柑橘の酸と少しの苦みを含んだ香り。誘われて思わず丸かじり。キュッと酸っぱく、しかし旨みのある濃厚な味わいには、太陽の力と作り手の愛情を感じさせる強さがある。
小椋さんにお話を伺った。
小椋さんは、約20年前からユズの栽培を始めたという。それまで大台町でユズの栽培をしている人はいなかったが、過疎が進む中で「何か新しい地場産業を」と始めたのがユズだった。
獣害も少なく、加工品としても展開できるユズ。
今ではユズ農家の仲間も増え、また新規にユズ農家を志望する人や、加工品への展開を考える人など、いろいろな方が小椋さんを訪ねてきて盛り上がりを見せているという。
そのようなユズの加工品を紹介したい。

宮川物産の商品の写真
▲町内の食品工場が販売する商品。先ほど訪れた小椋さんのユズも使われている。

このユズを使って、町内の食品工場では、ジュースやお菓子が作られている。

商品のパッケージや販売促進用のカタログなど、デザインにもこだわり、豊かな自然と一緒にユズの魅力を訴求している。

田村さんと商品の写真
▲工場長の田村さん。

ご対応いただいた、工場長の田村和也さんの言葉が印象的だった。
「歳をとると、生まれ育った場所に帰りたくなるものです。」
田村さんは、県内の市街地からのUターン移住者。
幼き日に見た美しい自然は、その地を離れてもその人の脳裏に焼き付き、その人の中に残り続けるのだと感じた。人が、美しい自然が育てた農作物を摂取して、体の一部となるように。

続いて訪れたのは町内の土木建築会社。

スタッフ集合写真
▲スタッフのみなさん

同社では「あしたば事業部」という部をつくり、地元産のユズを使って化粧品の企画、製造、販売を行っている。訪れると同部の女性メンバーが出迎えてくれた。

化粧品の商品写真
▲ユズ成分が入った化粧品

これらの化粧品は肌に優しく、たくさんの人の美をささえているという。
商品の開発において、もともとはメンバーのみなさんの、悩みや想いが出発点になっている。
ユズの成分に着目し、「敏感肌、時短、手ごろな価格」など、多くの女性の悩みに対応した化粧品だ。

取材を終えたころ、太陽はもう大台ケ原の向こう側。また明日、あたたかな光を届けてくれるだろう。
自然のなかで、食べ物という命が育つ場所には、美しい色が輝いている。それは、命の輝く色なのだ。
そして今日取材させていただいた、食べ物という命に向き合う人々の目にも、キラリと光る輝きを見た。


(2017年10月26日取材)
企画編集:三重に暮らす・旅するWEBマガジンOTONAMIE
取材:葛西 博実(OTONAMIE記者)

取材協力

まこもでキレイになろう。プロジェクト
三重県三重郡菰野町菰野8522
(特定非営利活動法人三重県自然環境保全センター内)
TEL 059-392-3350
FAX 059-392-3351
HP http://eccom.jp/makomo/
Facebook https://www.facebook.com/まこもでキレイになろうプロジェクト-939081729484070/

真菰の菰野会
三重県三重郡菰野町菰野1692
TEL/FAX 059-393-1346

湯の山温泉 鹿の湯ホテル
三重県三重郡菰野町湯の山温泉
TEL 059-392-3141
FAX 059-392-2207
HP http://www.sikanoyu.co.jp
Facebook https://www.facebook.com/鹿の湯ホテル-235849539799175/

道の駅 菰野
三重県三重郡菰野町菰野2256
TEL 059-394-0116
HP http://www.kanko-komono.com/michinoeki/

JA多気郡シルバーセンター奥伊勢
(奥伊勢えごま倶楽部事務局)
三重県多気郡大台町上楠221-1
TEL 0598-83-2614
FAX 0598-83-2296

トリコノ世界 It is a miracle!
(トリコになる農業体験&ピクニック in 三重県大台町)
HP https://toriconosekai.wordpress.com

ユズ農家 小椋悟さん
HP http://www.miyafoods.com/interview.html

株式会社 宮川物産
三重県多気郡大台町本田木屋388-1
TEL 0598-76-0200
HP http://www.miyafoods.com
Facebook https://www.facebook.com/miyafoodscom/

株式会社丸八土建 あしたば事業部
三重県多気郡大台町江馬668-1
TEL 0120-003-655
FAX 0598-76-0888
HP http://www.ashitaba-cosme.com
Facebook https://www.facebook.com/ashitaba.2221/

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