三重のお茶が世界へ。お茶の産地で、本物を愉しむ。

———お茶どころへ、ようこそ。

私は、三重県松阪市に生まれ育った。
写真が好きなカメラ女子だ。
最近、お茶の美しい緑色が映える写真を、SNSや雑誌でも目にすることが多い。
都市部でスタイリッシュな日本茶カフェが増え、海外では抹茶がブームらしい。
地元の松阪市は松阪牛が有名だが、お茶の生産も盛んだ。
そして三重県は、お茶の生産量が全国第3位で、三重県で生産されるお茶の総称は伊勢茶である。
お茶の産地で本物を知り、味わい、そして愉しみたい。
そんな想いを胸に秘め、お気に入りのポラロイドカメラを持って取材へ向かった。
まずは地元松阪市にある、日本茶カフェへ。

———とろっとした一煎目。60℃で90秒。甘味ではなく、それは旨味。

お店の玄関

ドアを開けると、お茶の香り。

お店で売られている伊勢茶のお菓子

ここはカフェだけでなく、伊勢茶や伊勢茶を使ったお菓子などの生産や販売も行っている。

カフェの座敷席
▲カフェの座敷席

カフェは、「ただいま」と言いたくなるような懐かしい気持ちになる空間。
ふぅ、落ち着く。まだお茶をいただいていないのに。

カウンター越しにお茶を淹れる松本さん
▲カウンター越しにお茶を淹れる松本さん

カウンター席で、お店の茶長松本浩さんにお茶を淹れていただいた。
鉄の釜で沸かしたお湯は一煎目では60℃に冷まし、その後、茶葉の入った急須に淹れて90秒待つ。
低温で、ゆっくりと茶葉を開かせるのだ。
どんな味がするのだろう、と期待が膨らむ。

お茶や和菓子の写真を撮る筆者

時を刻む砂時計に、ゆったりとした時間の流れを感じる。
そして、待っている間にパシャり。

お茶を淹れているシーン

急須から出てきたお茶は、とろっとしていると感じた。
最後の一滴まで注いで・・・。
さて、どんな味。

お茶を飲む筆者

私:え!お茶じゃないみたい。全く苦くなくて、すごく美味しいです!

お出汁みたいな味と、今まで感じたことがない程のまろやかさ。
しかし、味を上手く表現する言葉が見つからない。

私:「甘味」ですか?

松本さん:それは「旨味」ですよ。

と、優しい口調で教えてくれた。
低温でゆっくりと淹れたお茶は、旨味が凝縮されて甘みを感じる味になり、反対に高温で淹れたお茶は、苦味が強くなるらしい。

二煎目のお茶

続いて二煎目へ。
二煎目のお茶は熱いお湯で淹れて、待たずに湯のみへ注いでいただく。
同じお茶とは思えない、苦味と甘みを含んだスッキリとした味だった。
いつも飲んでいるお茶に近い感じで、こちらもおいしい。

松本さん:一煎目はお茶の味だけを愉しみ、二煎目からはお菓子などと一緒に、スッキリとしたお茶の味わいを愉しんでください。

私:こんな愉しみ方があったのですね。

和菓子

和菓子もいただき、私はまるで一煎目のお茶のように、とろっとした気持ちでリラックスしていた。
そういえば、お茶に旬ってあるのだろうか。

松本さん:新鮮な香りが特徴的なのが春の新茶です。それに対して、秋の蔵出し茶や壺切茶といわれるお茶は、茶葉を熟成させた旨味が特徴的です。好みは飲む人によってそれぞれです。夏には水出し緑茶もあり、お茶は季節ごとに愉しめます。私は自然の恵みを一年通じていただけるのが、お茶だと思います。

お茶の産地で、お茶をいただきながら、お茶の話を聞くという贅沢な時間。
カフェの近くで育てている茶畑もあると聞き、見せていただいた。

茶畑

車で数分、茶畑に到着。
普段は意識して眺めることのなかった茶畑だが、おいしいお茶をいただいてから眺めると急に身近な存在に感じ、愛着がわいた。
かまぼこ型に刈られた茶畑の木。そのフォルムさえいとおしいと感じる。
目線を下に落とすと、地面に褐色の丸い種らしきものが・・・。

お茶の種

私:これは何ですか?

松本さん:「ちゃぼろ」という、お茶の木の種です。

伊勢茶オイル
▲以前に開発し販売中の伊勢茶オイル

松本さんは、自社の深蒸し煎茶を使った伊勢茶オイルを、県内の製油会社と一緒にを開発したことがあり、「ちゃぼろ」を使ったお茶のオイルも、同様に開発中だ。

地元で再発見したお茶の奥深さに触れ、もっと知りたくなった。
お茶の生産量全国第3位の三重県だが、「かぶせ茶」というお茶は、三重県が生産量全国第1位だと聞いたことがある。
・・・で、かぶせ茶って何?
そして、かぶせ茶の産地では、どのようにそれを愉しめるのか。
かぶせ茶の産地である、四日市市水沢(すいざわ)へ、車を1時間ちょっと走らせた。

———水沢のお茶は、世界デビューしていた。

伺ったのは、年間約370トンと、三重県で最もお茶を生産している製茶会社。
もちろん、自園でかぶせ茶も生産している。

かぶせ茶を説明する萩村さん
▲かぶせ茶を説明する萩村さん

かぶせ茶って、そもそも何?
優しい笑顔が印象的な、萩村浩史さんに聞いた。

かぶせ茶の様子
▲写真:萩村製茶のホームページより

萩村さん:お茶の新芽が出てから2〜3週間、黒いネットをかぶせて育てるんです。だから「かぶせ茶」といいます。ポイントは被せるネットにあってね。布じゃなくてネットなので、少しの光が入るようになっていて、新芽ががんばって少しの光で光合成をしようとします。そうすることで色合いが良くなったり、旨味成分が増して甘く感じる茶葉ができるんですよ。

私:しかしなぜ、かぶせ茶の生産地として水沢が適しているのですか?

萩村さん:鈴鹿山脈で磨かれたキレイな伏流水と大きめの粒(礫)を含んだ水はけが良い壌土は、かぶせ茶を育てるのに良い環境なんです。あと、京都といえば宇治がお茶どころとして有名ですが、過去から水沢のお茶を京都に出荷していることもあり、京都でも「水沢のお茶は色がキレイだ」といわれています。水がキレイだと、ほのかに青色に近い美しい緑色のかぶせ茶になります。そして、かぶせ茶は玉露に次ぐ高級茶なんです。

G7伊勢志摩サミットで使われた抹茶
▲G7伊勢志摩サミットで使われた抹茶

かぶせ茶を、わかりやすく説明していただいた萩村さんは、日本茶インストラクターの資格を持ち、G7伊勢志摩サミットでは、ここのかぶせ茶を使った抹茶が使用され、国際メディアセンターでは、ウェルカムティーとしてお茶を振舞われたとのこと。

萩村さん:水沢のかぶせ茶で作っている抹茶は、多くのカフェでも使われているんですよ。

そして、カフェでコーヒーを淹れた後に残るコーヒーかすを熟成発酵させてできた堆肥をここの茶畑で使うことで、循環型社会を目指しているという。
さらに、ここの抹茶はアメリカを始め世界の国々に輸出されている。
抹茶といえば京都をイメージするが、三重の抹茶も海外で使われているとは驚きだった。

萩村さん:世界で「matcha」は共通語になっています。

甜茶炉の前で撮影する筆者と萩村さん
▲抹茶の甜茶炉の前でパシャリ

かぶせ茶についての知識を学んだ上で、次はじっくりとその味と時間を愉しみたい。
車で約5分。かぶせ茶がいただけるカフェへ向かった。

———おいしいかぶせ茶、美しい茶器。時間もまるごといただきます。

古民家カフェの外観

清水さんとお店の玄関口で会話する筆者
▲清水さんとお店の玄関口で会話する筆者

古民家カフェののれんをくぐると、店主の清水加奈さんが温かい笑顔で迎えてくれた。

アンティークな家具や小物があるお洒落な店内
▲アンティークな家具や小物があるお洒落な店内
ひとしずくという名の急須

店内にあった、コロッとした美しい急須。
四日市市といえば、萬古焼きが有名。
「ひとしずく」という名のこの急須も、萬古焼きだ。

かぶせ茶セットを撮る筆者
▲かぶせ茶セットが到着。思わずパシャリ。

縁側で、温かな日差しを感じるひととき。

かぶせ茶セット

湯冷ましから、小さな急須にお湯を注ぐ。

お湯を注がれた急須

急須にふたがなく、お茶の香りが室内に広がる。
60℃くらいのお湯で、ゆっくりと茶葉が開いていく。
そんな、ゆったりとした時間。
茶葉が開いたので、少しずつ湯のみに注ぐ。
旨味がたくさん詰まっている、最後の一滴まで。
では、いただきます・・・。

お茶を味わう筆者

私は、幸せ者だ・・・。
口の中に旨味が広がり、永遠に続いて欲しいと思う、そんな時間。

鮮やかな緑のお茶

鮮やかな緑。
さすが、かぶせ茶。
二煎目は熱いお湯でスッキリと。

清水さん:常連さんは色んな淹れ方で、10杯くらい飲まれますよ。好きな飲み方で味わってくださいね。

三煎目、四煎目・・・。
いろいろと試したくなる、お茶の世界は深い。

あられのお茶漬け
▲あられのお茶漬け
かぶせ茶が練り込まれたぜんざい
▲かぶせ茶が練り込まれたぜんざい
ポン酢でいただくかぶせ茶の出がらし
▲ポン酢でいただくかぶせ茶の出がらし

あられのお茶漬けやぜんざい、そしてかぶせ茶の出がらしをいただきながら、気が付けば、私は10杯くらいのお茶をいただいていた。

そんな “おいしい時間”をごちそうになり、カフェを出たら夕暮れ。

夕日と茶畑

美しい夕日に誘われて、近くの茶畑を少し散策。

夕日と茶畑の写真を撮る筆者

パシャり。

こんなにゆったりとした時間を過ごしたのは、久しぶりだった。
お茶がこんな時間を作ってくれたのだと気が付くと、懐かしい感覚を色々と思い出していた。
実家で人が集まり、お茶を淹れてみんなでわいわいと話して過ごした日々。
寒い夜に、一人で温かいお茶をゆっくり飲んだこと。
お腹がいっぱいになった食後の、あのほっこりする一杯のお茶。

昔からお茶は、暮らしの中にあり、お茶が幸せな時間を作ってくれていたのだ。

そんな想いは、今日撮った写真を眺めるたびにお茶の香りと一緒に何度でも私の中によみがえるだろう。

筆者の撮った写真

筆者の撮った写真

筆者の撮った写真

この先どんな未来が待っているのかは、誰にも分からないが、お茶のある幸せな暮らしをじっくりと愉しもうと思った。

急須から注がれる一滴のお茶

最後のひとしずくまで。



(2018年1月16日取材)
企画編集:三重に暮らす・旅するWEBマガジンOTONAMIE運営本部
取材:橋本 奈々(OTONAMIE記者)

取材協力

深緑茶房 本店(有限会社 深緑茶房)
三重県松阪市飯南町粥見4209-2
Tel 0598-32-5588
HP http://www.shinsabo.com
Facebook https://www.facebook.com/shinryokusabo/

有限会社 萩村製茶
三重県四日市市水沢町3285
Tel 059-329-2204
HP http://hagimura.jp
Facebook https://www.facebook.com/hagimura.jp/

かぶせ茶カフェ(有限会社 マルシゲ清水製茶)
三重県四日市市水沢町998
Tel 059-329-2611
HP http://www.marushige-cha.jp

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