???テーマのある旅。
サンフランシスコにある、人気のチョコレート専門店。日本での第1号店が東京都台東区蔵前、そして第2号店が三重県伊勢市にある。第2号店は、伊勢神宮外宮(げくう)の参道沿いに、平成28年12月に開店した。当初、私は“なぜ大阪や福岡ではなく、伊勢なのだろう”と思った。
WEBサイト「つづきは三重で」の中で、このお店を運営する日本法人のCEO堀淵清治さんは、初めて外宮の正宮を訪れたとき、日本の美の原点だと感じたと語っている。私は、なるほど、と思った。
そして、自分なりでいいから、日本の美の原点を感じたい、と直感的に思った。
そこで、伊勢神宮がある伊勢市と、日本の原風景が残る南伊勢町を、日本の美の原点を求めて1泊2日で巡ることにした。
???ゲストトラベラーと巡る旅。
三重県で生まれ育った私にとって、伊勢神宮や南伊勢町は、身近に感じる。今回の旅を県外や海外の人の目線で捉えると、どう感じるのだろう。そんなオーダーに応えてくれたのは、今回一緒に旅をしてくれるイレーネさん。
イレーネさんはドイツ人の父親と日本人の母親の間に生まれて日本で育ち、ロンドン大学を卒業後、フランスで演劇を学び、今は名古屋市で暮らし、東海地方のラジオ番組も担当する人気のDJだ。
今回の旅は、イレーネさんと私のほかにカメラマン、映像カメラマン、アシスタントの5名で巡る。
旅の始まりは、今回の記事を書くきっかけとなったチョコレート専門店から。
???9:00「旅の始まりには、チョコレートがあるといい」
お店に入るとスタイリッシュな雰囲気。魅力的なクラフトチョコレートがいっぱい。
イレーネ:チョコレートのいい香り。
このお店で人気の定番メニューでもある、ISE HOT CHOCOLATE(度会町でつくられているほうじ茶を使用)を飲んで、イレーネさんの表情が和らぐ。
イレーネ:オトナの甘さ。スッキリした後味ですね。美味しい。それと、丸くて両手で持つ器に和を感じます。
それにしても、建物のモダンな美しさとスタイリッシュなお店の雰囲気が似合うイレーネさん。最近流行のフォトジェニックというやつだろうか。
???10:00「雨が降って、風が吹いて、日が照って」
お店から徒歩5分で、伊勢神宮の外宮に到着。
鳥居をくぐり、参道に入る。隣を歩いていた参拝者が「一歩入ると、空気が変わりますね」と言っていた。確かに凜とした空気を感じる。
外宮には、衣食住、産業の守り神である、豊受大御神(とようけのおおみかみ)が祀られている。
外宮では、約1,500年、1日も欠かすことなく、朝夕の二度、日本の総氏神と崇められている天照大御神(あまてらすおおみかみ)をはじめとする神々に、食事を作り続けている。
そして、風宮(かぜのみや)には風雨をつかさどる級長津彦命(しなつひこのみこと)と級長戸辺命(しなとべのみこと)が祀られている。
雨が降って、風が吹いて、日が照って。そして命が育ち、食べ物となる。
ここでは、食べることへも感謝をする。
カメラマン:祈る力、感謝する力が集まると、そこがパワースポットになる。
イレーネ:そうですね。伊勢神宮に限らず、世界中にある聖堂もそうかも知れませんね。
???11:00「外宮参宮で素敵な刃物屋さんに出会った」
外宮参道を中心に設置されている、58基の献燈。モダンと歴史が融合している街並みに映える。
そんな参道で、刃物関連商品を販売し、街の歴史や文化を発信しているお店がある。
「ドイツでは結婚などのお祝いに、刃物などの生活用品を贈ることが多い」と、イレーネさんが教えてくれた。
お店には、神話占合(しんわうらなひ)という、おみくじのようなものがあった。番号が書かれた棒をお店の人に渡すと、占いではなく日本の神話が書かれている紙がもらえた。
お店の方:要約すると、神様はがんばっている人を応援してくれる、ということです。
イレーネ:素敵!いいですねー。
参道にとても似合うお店だと、私は思った。
近年、伊勢市河崎という街が人気になっている。五十鈴川沿いに、風情のある町屋や土蔵が残る街並み。そして新しいスタイリッシュな魅力もある。
外宮参道を後にして、河崎に向かった。
???13:00「土蔵が似合う街には、魅力的な人がいる」
外宮から車で約10分。
河崎を散策。ふらっと立ち寄った古本屋で、河崎や伊勢神宮のことをよく知るオーナーさんとお喋り。
江戸時代(1700年代頃)のおかげ参りブームで爆発的に増えた参拝者。日本各地から物資を集める問屋が軒を連ねていた河崎は、参拝者への食材を確保するための重要な拠点であったらしい。
「(中略)つまり伊勢はワンダーランドだったわけ」と楽しげに話すオーナーさん。
私は思わず当時のにぎわいに想いをはせる。一生に一度は伊勢詣で、と日本中から何日もかけて伊勢を旅した時代。そんな空気を感じる河崎の街並み。
そんな河崎にある、気になるお店へ。
このお店で人気のサトナカクッキー。
ササササササササササ中。中にサが十個。だからサトナカ。
ちなみにサトナカとは、元々河崎にあった地名だ。
デザイナーの中谷武司さん(左)と、お店を運営するはしもとゆきさん(右)によるEMELONという二人組ユニットが、サトナカクッキーを始めモナリザの商品を作っている。中谷さんはニューヨークでの暮らしや、アメリカやヨーロッパを旅した経験もある。
イレーネ:中谷さんは、海外から伊勢に戻られたわけですが、東京ではなく伊勢を選んだ理由は?
中谷さん:アメリカやヨーロッパに行ったりすると、あれ、伊勢も負けてないなって思ったんです。
イレーネ:伊勢は変わりましたか?
中谷さん:はい、常に。僕たちは変わらなきゃ。
イレーネ:Wow! We have to change!
中谷さんは他にも「伊勢市は観光地であり、人が来てくれる街。だから伊勢にある商品などをデザインして、伊勢を持って帰っていただくことで、魅力を発信したい」と教えてくれた。
次に目指すのは、日本の原風景を感じる南伊勢町へ。
???15:00「観光から旅へ」
車で約一時間のドライブ。阿曽浦という漁村に到着。待っていてくれたのは、漁師の橋本純さん。世界を旅した元バックパッカーで英語が話せ、今は家業である漁師と水産会社を営んでいる。
いざ、漁師体験へ。
イレーネさんが体験しているのは、刺し網漁。
イレーネ:わぁ、キレイな青色ですね。
漁師さん:これはオス。生き物は、メスにパートナーとして選んでもらうため、オスの方が派手な場合が多いらしいよ。持ってみる?
イレーネ:えっ、こわいです・・。
漁師さん:ハサミの持ち方だけ間違えんかったら、大丈夫。
イレーネ:ヒー!こわいー!
海の上など大自然の中にいると、人は無邪気になるような気がした。
その後、伊勢マダイの餌やり体験などをして、港へ戻る束の間。
自分の内面に向き合っているかのように、静かになる時間があった。
漁船に揺られ、風に吹かれ、大自然の中にいると、自分という小さな存在に気付かされる。
時間はゆったりとした流れにかわり、朝から記憶や感性へインプットする旅行だったが、ここで心がリセットされ、想いをアウトプットする旅になる。海、山、空という大自然を感じる美の中で、私はそんな瞬間を感じた。
???17:00「複雑な物事や考え方も、削ぎ落とすことでスマートになり、シャープでシンプルになる」
南伊勢町の相賀浦に移動。
ゲストハウスとして生まれ変わった元小学校が、今日の宿。
夕食は漁師の橋本さんと一緒に、敷地内で地物バーベキュー。
キッチンでは、イレーネさんが漁師さんに教えてもらいながら、マダイの塩釜づくり。マダイの塩釜が焼き上がった。
イレーネ:香りがとてもいい!そしてとってもジューシー。
他にもサザエやあっぱっぱ貝(ヒオウギ貝)など、地物の海鮮バーベキューを堪能。
おいしい食事、非日常的な空間で過ごす夜。バーベキューコンロを囲み、話しは尽きなかった。
漁師さん:俺の人生、リアス式。
格言的な言葉が飛び出しては、笑ったり、妙に納得したり・・。
映像カメラマン:海外に暮らしていたこともあるのですが、日本は削ぎ落とす美学ですね。
カメラマン:素材がよければ、味付けはシンプルでいい。
私は、軽くうなずいたあと、ハッとした。
複雑な物事や考え方も、削ぎ落とすことでスマートになり、シャープでシンプルになる。私はそんなことを考えながら、今日巡った伊勢市と南伊勢町を回想していた。
「僕たちは常に変わらなきゃ」という伊勢のデザイナーが手がける、スマートでシンプルなデザイン。
南伊勢町で感じた、自然の美しさ。
命をいただくという、食への感謝の気持ち。それは命を育てる自然への感謝の想いだと私は思った。
伊勢神宮という美は、そのような自然への感謝の想いを表しているのかも知れない。
自分なりに見えてきた、日本の美の原点。明日はそれを、日本の原風景で感じたいと思いながら眠りについた。
???8:00「フォトジェニックな漁村」
漁村の朝。家がギュッと、まるで寄り添うように建っているのが漁村の特徴。
漁村を散策。漁船の心地よいエンジン音と波の音。他に物音は少なく、視界にはこちらに主張してくる人工物も少ない。
暮らしの真ん中に、漁業という昔からの産業がある漁村。長い時間をかけ、そんな暮らしがつくり上げてきたスマートでシンプルな景観に、私は日本の美を感じた。
私:フォトジェニック
と、口からもれた。気が付くと皆、漁村に咲いた一輪の花を眺めるように笑顔になっていた。
???10:00「いい気分にリフレッシュするのに、多くの要素はいらない」
高台から湾を眺めるため、相賀浦にある南海展望台へ。
眼下に広がる絶景。青い海はキラキラと輝いている。
私は、海の輝きが、まるで地球の命の輝きを表しているようで、大きなスケールを感じた。
自分なりに感じた、日本の美の原点。
それは自然に感謝の気持ちを持つことで見えてくる、自然の中にある命が輝く美しさそのものが美の原点となっているのかも知れない。
と、考えていると・・・。
南海展望台に、海を眺める気になるオブジェ。
まるでどこかの国際芸術祭に出展されている、現代アートのオブジェのようなたたずまい。
ついつい真似したくなるポーズでパシャり。オブジェは元気をくれた。
予定していた旅は、ここで終了。
「いい気分にリフレッシュするのに、多くの要素はいらない」
帰りの車内での、イレーネさんの言葉が印象的だった。
近鉄宇治山田駅(伊勢市)に到着。
伊勢市在住のカメラマンがオススメしてくれた、地元グルメ、からあげ丼。
美味しい物が食べたければ、その地の人に聞くといい。
そう、未だ見ぬあなたの旅先には、必ず誰かが待っている。
食べることは生きること。
そしてそれは、できるだけ楽しい方がいい。
???おまけ
フォトジェニックな恋人の聖地
ハートの入江(南伊勢町、鵜倉園地)
天空のポスト(伊勢市、伊勢志摩スカイライン展望台)
(2017年9月27日?28日取材)
企画編集:三重に暮らす・旅するWEBマガジンOTONAMIE
取材:村山 祐介(OTONAMIE代表)
取材協力
Dandelion Chocolate Japan
伊勢外宮前うみやまあひだミュゼ店
三重県伊勢市本町20-24
Tel 0596-63-6631
HP https://dandelionchocolate.jp
伊勢神宮
三重県伊勢市宇治館町1
Tel 0596-24-1111
HP http://www.isejingu.or.jp
伊勢 菊一
三重県伊勢市本町18-18
Tel 0596-28-4933
HP http://isekikuichi.com
古本屋ぽらん
三重県伊勢市河崎2丁目13?8
Tel 0596-24-7139
モナリザ
三重県伊勢市河崎2-4-4
Tel 0596-22-7600
HP http://www.emelon-shop.net
友栄水産
三重県度会郡南伊勢町阿曽浦345
Tel 0596-72-1351
HP https://www.facebook.com/yuuei.fish/
ふれあいと体験の館「海ぼうず」
三重県度会郡南伊勢町相賀浦371-1
Tel 0599-64-0010
HP http://www.amigo2.ne.jp/~seakids/
まんぷく食堂
三重県伊勢市岩渕2丁目2?18
Tel 0596-24-7976