今や海外でも通じる、Sushi。
世界に誇れる日本の文化として各地で提供され、多くの人々に愛されている「すし」だが、実はこの三重県で様々なめずらしい寿司が食べられることをご存知だろうか。
三重県には、伊勢湾と熊野灘という二つの海があり、多くの魚種が水揚げされている。志摩市の漁師が考案したとされるカツオなどの手こね寿司は、多くの観光客で賑わう伊勢志摩地域の郷土料理として知られているが、それ以外にも北から南まで美味しい寿司屋がたくさんある。
そして、地域や季節により異なる寿司ネタを愉しむことができる。
今回はそんな三重県の寿司店を、北から南まで三店を探訪した。
地域の旬を、その地で食す。
そんな大人のグルメ旅に、ぜひお付き合いいただきたい。
???その手は桑名の焼きハマグリ
東海道五十三次、42番目の宿場である桑名市は、旅籠屋数が東海道で2番目の規模であった。
桑名市といえば “ その手は桑名の焼きハマグリ ” という駄洒落も江戸時代から流行したほどのハマグリの名産地。
ハマグリが有名な桑名市で、来年創業100年を迎える老舗寿司屋、平和寿司(へいわずし)を訪ねた。
暖簾をくぐると、カウンター席とテーブル席、奥には庭が見える座敷席。
寸分狂わぬカウンター席の椅子や箸の位置。
老舗らしさを感じながら、カウンター席に座ると元気な大女将が迎えてくれた。
店は大女将、息子さんである大将(4代目)とその奥さん(女将)が中心となり営んでいる。
早速、ハマグリを見せていただいた。
こんなに厚みのあるハマグリ、見たことがないと驚いていると、
大女将:貝がぷっくらしてるでしょ。これが桑名のハマグリ。身がふっくらしていて水っぽくなく旨みが詰まっているんですよ。
桑名市のハマグリは、木曽三川のミネラル豊富な水が流れつく伊勢湾で捕れる。
ミネラル豊富な水は海藻や藻を育て、ハマグリはそれをエサにして育つ。
年中捕れるハマグリだが、産卵を控えエサをたくさん食べる6月あたりが旬だという。
口に運ぶとハマグリという貝が持つ、上品な旨みがじわっと広がる。
ふっくらとした身の弾力は、ほどよい加減に柔らかく、何度もゆっくりとその食感を愉しみたくなる。
京都や東京など、県外から食べにくる常連も多いというのも納得だ。
大将:煮ハマグリはさっと熱を通し、そのあとは出汁につけ込みます。桑名のハマグリは焼いても煮ても美味しいですよ。
大将はそういうと、次はキスの握りを出してくれた。
川からの養分を含んだ良質な海域である伊勢湾のキスの、繊細な白身は歯切れ良い。
昆布締めされ、上品な味わいが愉しめるキスの握りだ。
三重県産の寿司ネタはハマグリやキスの他にも、桑名市が誇る春の白魚、ハモ、アジ、ヒラメなども四季に応じて愉しめるという。
店内を眺めていると、日本一やかましい祭り、桑名石取祭(ユネスコ無形文化遺産)の絵や、三重すし街道のパンフレットが置いてあった。三重すし街道とは「ぶらり味の名店26選」と題し、三重県内の26店の寿司屋が加盟している団体で、寿司業界の発展や若手寿司職人育成のために様々なイベントなどを行っている。
桑名市を後にして、次に向かうのは伊勢神宮のある伊勢志摩エリアだ。
???タコは、塩で。
桑名市から伊勢神宮(外宮)まで車で約1時間半。
さらにそこから志摩半島へ、40分程車を走らせたところが次の店、鮨暁(すしあかつき)だ。
伊勢志摩の旬を握る、というのが店のコンセプト。
店内はカウンター席と座敷席。
老舗というより、入りやすい雰囲気の店の印象。
カウンター席に座り、タコを注文。
大将:タコは塩でどうぞ。
伊勢志摩といえば、伊勢海老やアワビが有名。
そして伊勢志摩のタコはそれらをエサにしているので、味が濃いと聞く。
しっかりとした絶妙な歯ざわりと、まさに濃いタコの味が愉しめる。
あれ?アジってこんなにも、跳ね返ってくるような食感と旨みがあっただろうか。
大将:都会で食べるアジと全然違うと、アジの味と食感に驚かれます。使っているアジは網ではなく、釣り漁で丁寧に捕ったものなので、身崩れがありません。
他にもこのお店の寿司ネタは、ほぼ地元伊勢志摩で捕れたものだ。
平日は地元の客が多く、中には漁師や漁業関係者なども通う。
大将は、志摩市のとなり町の漁村で、マグロやカツオの漁師の息子として育った。
関西の名店で寿司の修行を積み、志摩市で店を開業。
大将は開業当時、伊勢志摩の魚種の多さに驚いたという。
そんな大将との会話を愉しんでいたら、キツネが出てきた。
この地域ではハガツオのことをキツネガツオ(通称:キツネ)という。
カツオと名前についているので、一般的なカツオの味を想像しがちだが少し違う。
スズキ目サバ科のハガツオは、他の地方ではサバカツオと呼ばれることもある。
もちっとした食感、サラリとした脂はサワラの味に近く、サワラとカツオの良いとこ取りのような味。
ハガツオはサバ科のなかでも漁獲量が少なく、また足が速いため、ハガツオの刺身や寿司は産地で食べるに限る。
夏が旬のイサキやカレイ、鳥羽市の離島答志島で捕れる珍しいタイラギ貝などをいただいた。
そして伊勢志摩の夏といえば、やはりアワビ。
漁をする海女さんは、伊勢志摩の風物詩ともいえる。
伊勢志摩に広がるリアス式海岸は、太陽の光が海の中まで届きやすい環境だ。
そこに山からのミネラル豊富な水が加わると、海藻が育ちやすい。
アラメという海藻をエサにするアワビにとって、このエリアは快適な環境だ。
おいしい食材が豊富に育つサスティナブル(持続可能)な環境がここ、伊勢志摩には根付いている。
大将:メニューは手書きしているのですが、毎日捕れる魚は変わるので、魚種が多すぎて書き切れないこともあるんですよ。
伊勢志摩の旬を堪能した後は、熊野灘のある東紀州の尾鷲市へ地元の味を求めて向かった。
???高級魚、メイチダイを求めて。
伊勢志摩地方から続く、東紀州のリアス式海岸。
山と海の距離が近く、水深が深い熊野灘は、以前にも「三重の食結び」で書いたエビの宝庫でもある。
実は以前、私はイカミルフィーユなるものを尾鷲の寿司屋で食べたことがあった。
地元産のアカイカの中に、地元産のウニが入っているのだ。
きっとあの店なら、イカミルフィーユの他にも美味しいお寿司が食べられるはずだ。
そんな期待を胸に店、すし処 一重(いちじゅう)に伺った。
店は住宅街にあり、カウンター席と座敷席がある。
座敷席は尾鷲ヒノキをふんだんに使った部屋もあり、ヒノキの良い香りがした。
さっそくイカミルフィーユを注文。
大将:あー、ごめんねー。売り切れなんです。昨日はお客さんが多くて。ごめんね!
地物を握ってもらうことにした。
まずは小アジの握り。活け締めのアジしか使わないという。
美術品のような美しい寿司だ。
都会で寿司の修行を積んだという、大将の繊細な江戸前の仕事がうかがえる。
続いて出てきたアカイカの握り。
口に入れると、細く切られた身が解ける、驚きの感覚。
包丁で施された技で、醤油がバランスよく身に染み入る。
大将:東紀州で捕れる赤ウニは、お客さんにも人気ですよ。
こんなに目が細かく、醤油がいらないくらい濃厚な味わいで、素早くとけるウニを食べたのは初めてだった。新感覚だ。
私:あのー・・、メイチダイってありますか?
大将:メイチね。はいよ!
以前、尾鷲市に暮らす知人から、夏になったらメイチダイが旨いと聞いたことがあった。
高級魚で「とにかく旨い!」のだが、漁獲量が少ないので、店にあったら迷わず食べた方がいいと薦められていたのだ。
口に運ぶ。
不思議だ、鯛とは思えない程の甘みを感じる旨みがある。
そして脂がのっている、白身の旨みが豊かに口のなかに広がる。
なるほど「とにかく旨い!」と納得だった。
メイチダイは夏に脂が乗る分、日持ちがしない。
従って、都市部でこの味を堪能するのが難しいらしい。
他にもカツオ、赤カマス、タチウオ、イサキ、オニエビの握りをいただいた。
どれも食通をうならす逸品だと思う。
締めに玉子をいただく。
大将:ガスエビをたたいて焼いた玉子です。
傷みやすく、流通が難しいガスエビは甘味が強く、地元のエビ好きにもファンが多い。
参考までに、以前に三重の食結びで書いたガスエビの記事を紹介したいと思う。
記事:ここに来ないと食べられない、漁師まちで愛される海老の味。
〈記事抜粋〉
一口サイズのガスエビ。食べると、うまみが口の中に広がる。新鮮ながすえびをお造りにしてもおいしいらしい。地元ではいろいろな料理に合うけれど、鮮度が落ちやすいこともあり、この地域でしか食べられない。
またガスエビをたたいて入れたりガスエビの出汁を玉子に使うことで、火に入れても固くなりにくい、と大将。
口に運ぶと、エビの香ばしく甘い華やかな風味が舞う。
東紀州で味わった美味の余韻に浸りながら、店を後にした。
今回は三店を巡ったが、まだまだたくさん三重には名店と呼ばれる寿司屋がある。
ぜひ三重へ、旬のご当地寿司をご堪能いただきたい。
(2018年8月6日、20日、24日取材)
企画編集:三重に暮らす・旅するWEBマガジンOTONAMIE運営本部
取材:村山 祐介(OTONAMIE代表)
取材協力
平和寿司
三重県桑名市矢田800
Tel 0594-22-0989
鮨暁
三重県志摩市阿児町甲賀1460-2 コーポ大石 1F
Tel 0599-45-5586
HP http://www.sushi-akatsuki.com
すし処 一重
三重県尾鷲市南陽町9-3
Tel 0597-22-8991